もう一人の自分。

ドッペルゲンガー

ドッペルゲンガーという言葉を聞いたことがあるだろうか?

ドイツ語で、生きている人間の霊的な生き写しを意味するこの言葉を最近少しだけ意識するようになった。
先日、店を訪れた日本人客の一行が、おれの顔を見て必要以上に驚いたことがあった。それはおれがオトコマエ過ぎるからという驚きではなく、死人かその他の類のものを見たような顔だった。
お互いに目を見合わせたまま、時間にしてみればほんのコンマ何秒の世界だったが、その時は時間が止まっているような感覚にとらわれた。
そしてその中の年配の男性が『カツキか?何してるんだ?こんな所で?』とワケの分からない言葉を発した。
予期せぬ言葉に少し戸惑ったが、コレはボケたんだと思い、『お久しぶりです。』と答えてみた。
すると、隣にいる奥さんらしき人が『いやぁ、びっくりしたわぁ。息子にそっくりなんだもの。』と少し興奮した様子でそう言った。
一緒にいたのはその夫婦の友人のようで、彼らもしきりにその“カツキ”に似ていると驚いているのだった。
その夫婦とおれとはちっとも似てもいなかったのだが、どうやらそのカツキとおれは父方の祖父に似ているとの事だった。
その時の彼らの興奮した様子をおいらの稚拙な文章で表現するのはすごく難しいけれど、ドッキリなんじゃないかと疑うほど良く出来た展開だった。多分、年末の特番で流れると思うから注意して見てて欲しい。
話によるとカツキは実家を離れ、たまに電話で連絡がある程度で、実家にはほとんど寄り付かずにいるそうだ。うぅん・・・おれとまったく一緒だ。カツキ、オマエは家帰れよ!
実はこんなことが過去に一度だけあった。それは何故か名古屋で寿司を食ってるとき、おれと同じくカウンターに座っていた中年の仕立てのいいスーツをうまく着こなした渋めの男がしきりにおれの顔を覗き込んでいた。
それに気づいたとき、最初は本気でこの人ゲイなんじゃ?と疑問を抱かせるほど人の顔をじっと見ていた。男と一緒にいた若い女がどうしたの?と男に尋ねる。その時、男と目が合い、彼はたまらずおれに話しかけてきた。
『久しぶり!・・・くんだよね?』
おれは名前のところが良く聞き取れなかったのだが、きっとどこかで会ったことのある人なのかと思い、曖昧にうなずいてみた。男の顔には全く見覚えもなかったが、それに対して確証もなかったからだ。
すると、男はおれにまったく関係のない仕事の話を始めた。それを聞いておれは『すいませんが、人違いですよ』と答えた。
男は『またまたぁ』という様子で、おれの言葉を信じない。『いや、ホントですから』と強く否定してもまだ納得していない感じ。横にいる女が『本当に違うみたいよ、この人』といってくれたおかげで、男は完全には納得してはいなかったようだが、一応おれに謝りながらも、ねじり切れてしまうほど首をかしげ、まだ考えていたようだった。
今、思えば知り合いのフリして店の勘定をお願いするべきだった・・・。今なら確実にそうするだろう。おれも大人になったものだ(笑)
それはさておき、こんな感じで自分と同じ姿をした人間が世界に三人もいるらしい。まったくウザイ話だ。まぁ、その中でもおれがとびきりオトコマエのはずだ・・・んっ!?。