ブランドの魔力

LOUIS VUITTON

街を歩いて同年代の日本人とカナダ人とを見比べて、決定的に違うひとつの要素。それが所謂、ブランド品といわれるモノ。いくら価値を見いだそうにも、良くて10分の1ほどしかないモノが、ブランドのマークを着飾る事で、10倍の価格を主張するすごい品物。
ネームバリューは、購入する人々に、優越感と安心感を与え、『何を持ってる。何を着ている。』的会話と欲を発展させていく。ここでは大半の日本人はアタマからつま先まで高価なブランドに覆われ、それに対しカナダ人を始めとする欧米人たちは誰一人それらを身に付けていない。これはかなり異様な光景。
もちろん、欧米人たちはそれらに対して決して無知なわけではない。ただ何かを買うときの候補にはなるものの、結局は気に入らなかったり、今の自分にはコレは似合わないと悟る力を持っていたり、品物と価格が見合わないとはっきり認識できる目があるから選ばないのだ。ところが日本人はというと、自分に似合う似合わないに関係なく、そのブランドを目当てに買い漁っている。そのブランドの持つことによって得られると感じているであろうステータスを求めて・・・。
欧米の人からすればそれは何とも滑稽な風景にしか見えないはずだ。彼らは同じお金でもたかがハンドバッグに何10万も出さないし、ちっぽけな飾り立てた靴に大枚ははたかない。
近年、幾ら日本人のスタイルが良くなったとはいえ、やはり欧米の人々のスタイルにはかなわない。その彼らが敬遠する服やアクセサリーが日本人に似合うわけがないと思う。どれだけ高価な衣服を身につけようと、どれだけ高価な貴金属で飾りたてようと、物だけが浮き立ち、それを身につける本人の貧困さが見えてしまう。
逆の心理から言えば、自分の魅力の無さを、物の影に隠してしまう事で、安心感を得ているのか・・・。『身だしなみ』とか、『清潔感』としての装飾は良い事だろうけど、人間性の出て来ない装飾は愚劣だと思う。*1

「私は、○○○○のブランド品を持ってる。」
「これは、○○○○って言うブランド品なのよ。」
「これは、○○○○って言って、○○○○円もするの。」
「これは、まだ日本に入荷してないモノなの。」
「これは、○○○○の新作なのよ。」
等々、聞いているとこれはコントなのかって思ったりもする。笑って欲しいのかオマエって・・。加えて、自分で言わなければ理解して貰えない、悲しい『あなた』の印象しか残らない。それにそんな話しを聞かされる相手の返事が、ほとんど「へぇー。」だけなのを気付いていない。しかし、この手の人たちは一切の批判や中傷を、すべて自分への羨望と名誉として受け入れる強固な精神力の持ち主でもある。
ただブランドには一種の麻薬のような症状があると感じる。各ブランドが不況を感じさせない*2桁外れの華やかな販売戦略を行い、さも買わなければならないと感じさせる記事に仕立てあげる業者と癒着したジャーナリズムがそこにはあるのだから・・・。
一般のましてや欧米文化に劣等感を持っているアジア人にとっては、手に入れる事で彼らに追いつけると思っている心理が少なからずともあるだろうし、それも分かった上でブランド側はそれをくすぐる戦略をとる。そこには需要と供給のもっとも簡単で分かりやすい構図が見て取れる。*3
ただ金で手軽に買える欧米の文化を手にし、中身の伴わぬまま街を歩く姿は日本人の心の貧しさを露呈しているようで、見ているこっちが赤面してしまう。ここに来て自分が日本人なんだって強く感じているし、やはりそこには日本人との繋がりや連帯感みたいな感情もあるのは確かで、言うなればここでは日本人は家族のようなもの。でもその家族がおかしな格好をして街を歩き、地元の人々の嘲笑を受けるのは自分が笑われているような錯覚に捉われる。
他国の文化の華を楽しむのはいいこと。ただそれだけを買い取ってそれで良しとする今の日本は異常であることは認識しなければならない。また自分たちの文化の基盤や自分の中の価値観をしっかりと踏まえていないと、表面的な華やかさに流されるだけで、自分の文化も見失い他国の文化も真底理解する事は出来ない。
だったらどうすればいいかっていう解決方法なんてないけど、とりあえず思いついたことを投げかけてみる。ただひとつ言える事は日本人がブランドに払っているそのお金を同年代の欧米人は自分を磨くために使っている。あなたはどう思うこの事に・・・。

◇◇以下注釈◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

*1:ただ決してブランドが悪いとは思わない。似合うかは別としてそれを持つことでしか幸福感が得られない人もいるのだから。そういう人は真冬の銀座とかの新店のオープンの時に、前の日からテントを張って震えながら待って、煽り立てるメディアのインタビューに「昨日の夜から並んでます!今日は頑張ります!」と鼻を垂らしながら醜態を全国ネットでさらせばいい。海外旅行でニセモノを買って大事に持って帰って自慢すればいい。彼らはそれで幸せなのだから。

*2:彼らだけはアジア人のおかげで好景気

*3:モノを買うっていう事はとても重要な事でそれが経済の基本であり、それが無ければ何も始まらないのだから。