国技の憂いごと。

プライスレス

とにかくカナダ人はホッケー大好き。*1性別や年齢を問わず、誰もが夢中。そんな環境の中、多くの男の子達は幼い頃からホッケー選手になることを夢見て育っているようだ。

先日こんな話を耳にした。
お父さんはイタリア人、お母さんはメキシコ人。カナダで出会いカナダで結婚した。カナダに移民し、そこで生まれてくる子は当然カナダ国籍を持つことが出来る。親は普通の公立の学校に息子を行かせた。子供は親の希望もあってサッカーを幼い頃から練習してきた。それと同時にホッケーも・・・。
やがて息子は大きくなり、そろそろスポーツもひとつに絞り、本格的に習う年齢になった。
親はそれぞれサッカーに対して熱狂的な国。夫婦のスポーツの話題もサッカーばかり。当然、息子もその道へ行くものだと考えていた。実際、客観的に見てもその子は、ずば抜けてサッカーがうまかったらしい。遺伝子のせいだろうか?
しかし、子供が選んだのはホッケー選手への道だった。親は息子がやりたいことをさせようと泣く泣く息子をその道へ歩ませることにしたそうだ。
この話からも分かるようにカナダではホッケー選手になることが子供達の一番の夢のようだ。
MasterCardのCMでお馴染みの“お金で買えないもの・・・プライスレス”もつい最近のシーズンが終わるまでアイスホッケーだった。
そんな環境だから当然、運動神経のいい子は真っ先にホッケー選手としての英才教育を受ける。
すると必然的にホッケーに一番いい人材が流れてしまうため、他のスポーツの人材はあまり育たないらしい。まぁ、中には例外もいるようだけど、男の子は一番注目を集めるホッケーに走るのは分かる気がする。

そんなカナダの子供達が夢中になっているアイスホッケーにかかわる問題が最近浮き彫りになってきた。
そのひとつが乱闘シーン。
日本でもアイスホッケーの映像が流れることがあっても、そのほとんどが乱闘シーンだったりする。試合なんてほとんど映らず、そればかりがクローズアップされる。それが競技みたいに・・・。
日本と同様に、それはこっちでもそう。特にアメリカのニュースチャンネルはひどい。確かに他のスポーツではあり得ない殴り合いがアイスホッケーの試合ではよく見られる。それがホッケーの見所のひとつだという人もいる。
信じられないぐらいすごいプレーが随所に溢れていたりするにもかかわらず、テレビで流れるのは乱闘シーンがほとんど。理由は恐らくテレビ受けし、単に盛り上がるからというのが一番だろうけど、ずっとこんなことやってていいワケがない。

カナダやアメリカの子供達は日本の子供より色々な側面から守られている気がする。
そのひとつにテレビ番組に対しての規制。例えば、日本で言う2時間もののサスペンス。主演は・・・片平なぎさ船越栄一郎。当然、人が殺される。それに絡む暴力的なシーンもある。そんで何故かセックスシーンもあったりする。そんな時、こんな番組では必ず警告がでる。“この番組は暴力シーンやセックス、汚い言葉などもたっぷりどっさりあります。気をつけてね!”とか何とかと・・・。コレは番組が始まる前の一回ではなくCM明けにも必ず入れられる念の入れよう。
これにより親達は子供に見せたくないものを排除できる。ただこれも万能ではない。ザッピングしてたら見てしまう場合もある。でも日本のように何もないよりはマシなんだろう。

もっと分かりやすく言うと、今年のスーパーボウルジャネット・ジャクソンが毒ちくびを世界にわざとらしくお披露目したのが大問題になったのも、本来含まれるはずのないスポーツイベントでそんな事をやったから。子供にそんなモノ見せるなんて!とヒマな親達はテレビ局に抗議し大問題になった。あれがMTVなら別に大したことにはならなかったはずだ。

でもスポーツであるホッケーにはそんな警告は当然ながらない。
流血してまでも殴り続ける暴力シーンがよくあるにもかかわらずだ。コレにはヒマな親達は何も言わないのだろうか?子供達のほとんどはホッケーを必ず一度は習う。そんな身近な競技で、それを子供達が真似をしかねないのに、これがホッケーだから当たり前だと知らん顔してる。

今年、Vancouver CanucksのBertuzzi選手は試合中、行き過ぎた暴力行為によって相手選手に選手生命を終わらせるほどの怪我を負わせ、刑事事件にまで発展した。彼は今、法廷に立っている。Vancouver Canucksでもスター選手でカナダのナショナルチームにも選ばれていたほどの選手だけに連日そのNEWSに誰もが注目している。
彼自身、今後プレーできるのかも今のところ分からない。もしかしたら実刑を受けるかもしれない。この事件もたまたま、Bertuzzi選手が当事者になってしまったという世論の見方が強い。彼は普段、そんな暴力的なプレーはあまりしない。ただ、その時の試合は初めから相手選手への報復が目的だった。恐らく、チームのフロントの指示で・・・。
この相手選手は前回、Vancouver CanucksのCaptainであるNaslund選手を試合中に脳震盪を起こさせる怪我をさせた。それがすべてのはじまりだった。だからこの時は試合じゃなかった。スコアは無視して、ただ一人の選手への報復のために行われた。つまりBertuzzi選手がやらなければ、違う選手がやっていただろうという見解がほとんどだった。でもそんな試合はよくあることらしい。

でもそんなのはおかしいと思うのは、おれだけじゃないはず。安易な報復からは憎しみしか生まれないし、何の解決にもなっていない。それじゃアメリカが今やってることと何ら変わりがない。
それにスポーツは子供達に夢を与えなきゃならないものだし、何よりも彼らは子供達にとってヒーローなんだから。間違ったことまで子供たちに教える必要はない。
だから、メディアも視聴者の興味本位に求めるものを追わず、ただ純粋にスポーツとしての良さを伝えていくべきだと強く思う。

アイスホッケーは北米4大スポーツであるにもかかわらず、ベースボール、バスケットボール、アメリカンフットボウルに大きく遅れをとっている。そのため、他のスポーツにない魅力をもっと訴えるべきなのに今は少しずれている。もしかしたらその焦りが違う形で出ているのかもしれない。
最近の過剰なまでの暴力的な流れもアメリカ資本主導の商業主義に乗っているだけ(カナダは資本力がないため、カナダのチームはどんどんアメリカに買収されている)のものなら、今後決してプラスにはならないと働きながら、ふと思った。



◇◇◇以下、注釈◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

*1:カナダの国技はどうやら二つあるらしい。ひとつはラクロス、そしてアイスホッケー。アイスホッケーが国技に正式に認定されたのは今からほんの10年ほど前のこと